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津山簡易裁判所 昭和43年(ろ)47号 決定 1968年11月26日

主文

本件請求を棄却する。

理由

本件記録によれば、被告人は昭和四三年九月五日無免許運転をした事実により、同年一〇月三一日津山簡易裁判所に略式起訴され、同日同裁判所は被告人を罰金一二、〇〇〇円に処する旨の略式命令をなし、右命令は同年一一月六日被告人に告知されたこと、これに対し被告人は同年一一月一七日到達の葉書により同裁判所に正式裁判の請求をしたこと、その葉書には「正式裁判を申しますからよろしくお願いします。」とだけ記載してあり、住所、氏名は「津山市野介代八二五の三」「柳昭子」となっていて、名下に押印は勿論指印もなく、また年月日の記載もないことがそれぞれ認められる。

ところで略式命令を受けた者が正式裁判の請求をなし得ることは刑事訴訟法四六五条一項の明定するところであるが、その方式については同条二項が「正式裁判の請求は略式命令をした裁判所に書面でこれをしなければならない。」と定めているにすぎない。而して右「書面」は、被告人からの正式裁判の請求であるからには、ことの性質上刑事訴訟規則六〇条の「官吏その他の公務員以外の者が作るべき書類」に該当することはいうまでもなく、従って同条に定める如く右「書面」には年月日を記載し、正式裁判の請求者が署名押印しなければならないこととなる。(署名押印ができない場合には同規則六一条による)このように正式裁判の請求の方式として「書面」が要求され、且つ同書面に年月日の記載、作成者の署名押印が必要とされるのは、要するに請求者に真に正式裁判の請求をなす意思があるかどうかの確認と、訴訟手続の確実性のためであると考えられるから、この要式性を容易に緩和することは相当でないといわざるを得ない。

そこで本件について考えるに、被告人は前叙のとおり葉書で正式裁判の請求をしたのであるが、葉書は電報などと異り、正式裁判を請求する意思を表示することができるだけでなく、これに年月日を記載し、請求者の署名押印をもなし得るから、本件葉書は前記刑事訴訟法四六五条二項所定の「書面」に当るというべきである。そうだとすれば、既述のとおり右葉書には当然刑事訴訟規則六〇条(または六一条)の方式が要求されるところ、右葉書には年月日の記載なく、請求者の名下に押印は勿論指印もないことは前認定のとおりであるから、結局本件正式裁判の請求は法令上の方式に違反するものというほかはない。(なお付言すると、略式命令では氏名が「柳明子」となっているのに、本件葉書にはそれが「柳昭子」と表示されていたため、果して同一人であるか否か、若干の疑問もあり、また前述のような方式の違反により、正式裁判を受ける機会を奪われるのは被告人に酷でもあるから、当裁判所は直ちに被告人に連絡して、適式な請求書を改めて提出させるか、もしくは葉書を補正させるべく相当の措置をとったが、被告人はこれに応ぜず、遂に請求期間を徒過したものであって、このことは当裁判所に顕著である。)

よって刑事訴訟法四六八条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 横山武男)

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